妊娠後期から出産,新生児期に子どもと一体であった母親は,徐々にその状態から離脱し元の自分を思い出す。Winnicott,D.W.はこの脱適応,すなわち母親側の「失敗」によって子どもは現実原則を身につけると述べた。精神分析的心理療法において,患者への同一化によって分析設定から逸脱していた治療者が,分析的な対象に回帰することは上記の失敗に相当し,患者の脱錯覚過程を進展させると考えられる。4年9ヶ月の精神分析的心理療法の経過を報告し,治療者が患者との同一化を自覚し分析設定を取り戻す意味について考察した。